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第141号 コメダ珈琲店が選ばれる本質とは

 

先日、テレビ東京系列の「カンブリア宮殿」という番組で、コメダ珈琲店が取り上げられていました。

 

実は何を隠そう、私はかねてからのコメダファンの一人であり、結構な常連さんなのです。

 

利用頻度が高いため、半年ほど前からはコーヒーチケットを購入するまでに。

 

さらに株主優待目当てで最近株主になったくらいなのです。

 

何故かゆっくりと本を読みたいと思うと、引き寄せられるようにコメダに行ってしまいます。

 

 

コメダは現在、国内877店舗、フランチャイズ率は97%で、直営店がほとんどないのです。

 

その番組では、社長の臼井さんをお迎えして、コメダの魅力を伝えられます。

 

私はこれまで、社長の臼井さんという方をよく存じ上げていなかったのですが、アメリカでMBAを取得されてから、セガ、ナイキジャパン、日本マクドナルドと渡り歩き、そしてセガに再入社し、社長をされていたという経歴の持ち主です。

 

この社長、現在週に一度、朝の時間帯に、本部に併設されているコメダのお店で、従業員として勤務しているとのこと。

 

これには、びっくりです。

 

現場を知っておかなければ、本部が実施する施策がずれてしまうという危機感があるようです。

 

 

そんな臼井さんがコメダの社長として就任し、どうかじ取りしていくのか、周囲は注目します。

 

就任後、しばらくして本部主導で全店舗に若者を呼び込むための一大キャンペーンを企画されました。

 

臼井さん自ら、各店舗のオーナーに、その説明と協力要請に伺います。

 

すると、「うちは、うちでやるから、ほっとてくれ。」と返答されるなど、至る所でオーナーからは協力できないと、あしらわれてしまうことに。

 

「この独立精神には本当にびっくりした。同じフランチャイズ形態であるマクドナルドと全く反応が違う。」と、臼井さんは驚かれていました。

 

しかし、落胆している臼井さんに向かって、ある店舗の店長が、帰り際にこう声をかけられました。

 

 

「まぁ、臼井さん、小さな改革 大きな成果でお願いします。」

 

 

この言葉をきっかけに、臼井さんはこの強い独立精神をもっと活かすようにしなければならないと決心されるのです。

 

 

私は会社員の時代、本部の仕事をしていましたが、各部門に依頼、要請をする場面がいくつもありました。

 

本部の考えることと各店舗(現場)が考えることには、大きな隔たりがあります。

 

本部側が全体として良い方向になるように働きかけても、現場は「本部がまた変なことを言ってきたぞ」というような感じで素直に受け取ってくれないものです。

 

 

そこで臼井さんは、店舗オペレーションにあまり負担をかけずに、大きな効果が見込めるものを模索し始めます。

 

コメダキッチンという新商品開発のためのテストキッチンを作られました。

 

その中で生まれた“カツカリーパン”がヒットし、定番メニュー化されたのです。

 

私も一度食べてみましたが、新宿中村屋と提携しただけのこともあり、高級感漂うカレー風味となっており、ボリューム感たっぷりで、男性客でも十分満足できます。

 

 

また、この小さな改革で一番花開いたと思われるのが、定番の“シロノワール”のアレンジメニューを期間限定で商品化していったことです。

 

ふんわり、サクサクの熱々デニッシュパンの上に、冷え冷えのソフトクリームがマッチングされた“シロノワール”。

 

これに、時期によって、小さな変化を加えることで、客を楽しませる。

 

こうした取り組みで、結果を出し続けていったことが、オーナーから臼井さんへの信頼を高めることに繋がったのだと思います。

 

 

さて、なぜコメダが選ばれるのか、その本質に触れておきたいと思います。

 

地域や店舗によって、異なるところはいくつかあるのですが、“選ばれるコメダならではの共通する価値”というものがあります。

 

 

・木を基調とした、温かみのある外観

 

・1席がゆったりとしており、長居しやすい居心地の良さ

 

・パソコンや資料を広げて仕事もできる

 

・値段は少し高めだが、それを十分補うだけの商品の質の良さを感じることができる

 

・バターたっぷりやフレッシュ多めなど、イレギュラーに応えてくれる柔軟性

 

 

テレビでは、従業員よりもよく来ているというスーパー常連客も紹介されていました。

 

臼井さんが、対談でコメダの強みは何かという問いにこう答えておられました。

 

 

「最大の強みは、心が軽くなる空気感」

 

 

これは、時間をかけて、従業員と客が一体となって自然と出来上がっていくようなものではないか、そんな気がしました。

 

 

最後に、私が愛知県で勤務をしていた頃の、コメダ珈琲のとっておきのエピソードをご紹介します。

 

私は、勤務先と自宅の両方に近いコメダ珈琲の店舗を好んで利用していました。

 

なぜか、そこはいつも混みあっています。

 

その店舗は駐車場がひときわ広く、車通りの多い立地にあったため、特にパンが無料サービスになるモーニングの時間帯は、常に順番待ちで並びます。

 

そことは違う店舗も利用したことがあったのですが、物足りなく感じたことがあったのです。

 

物足りない理由を考えた時、答えらしきものが見つかったのです。

 

 

ひとつは、品質が一定でないこと。

 

もうひとつは、接客、つまり人。

 

 

この場合の、品質とはパンの硬さや柔らかさ、パンの温かさ、バターの塗り方などを指します。

 

また、コーヒーの注がれる量です。

 

店舗によって、結構異なりますし、日によってもバラツキがあるのです。

 

私の好んでいく店舗は、いつも一定で一番美味しいし、いつもコーヒーカップぎりぎりいっぱいになるまで、入れてくれるのです。

 

これは通い詰めた私だからこそ気付けたことなのかもしれません。

 

 

ある時、家族5人でモーニングを食べにその店舗に入った時のことです。

 

店に入って、順番待ちの受付簿に名前、テーブル・カウンターの希望、人数を記入します。

 

そして待つこと20分ほど。

 

そろそろ呼ばれるかなと思って、待っていた時に、その女性店員が、私に近づいてこう声を掛けたのです。

 

 

「5名でお待ちの石束さん、お待たせしました。」

 

 

これには正直驚きを通り越して、感動を覚えたのです。

 

普通なら、この場面では、誰かわからないので、周りを見渡しながら、誰かに向けて「石束さん」と声を掛けると思います。

 

しかし、この女性店員は、他にも大勢の団体客がいたにもかかわらず、待っている間、家族と話をしていたりしている状況をとらえ、私が石束であると確信を持って、私に向かって案内をしてくれたのです。

 

たくさん人が出入りする中で、この洞察力には感心してしまいました。

 

これは、単に好立地だけで行列ができているわけではない。

 

こうした店員の心掛けが、リピーターを増やし続けているのだと感じたのです。

 

なぜこの店は繁盛するのか。

 

いろんな店を試し続けると、“選ばれる本質”が見えてくるものなのですね。