作家であり、複数のIT企業の役員をされている北野唯我さんの「これからの生き方」を読みました。
中身をよく確認せず、タイトルだけを見て購入してしまったため、いざ読み始めると、全体のおよそ半分が漫画だと、その時になってはじめて知ることになりました。
漫画のウエイトが高い本は、学びのボリュームが少ないのではと思っていたのですが、この本は全くそのようなことはありませんでした。
むしろこの漫画の存在が、さまざまな生き方や価値観を考えるのに、ちょうど良い材料となっているのです。
ビジネス系の漫画版は、何かきれいに描こうとする傾向があるのではという思い込みが私にはあります。
つまり、体系的な理論を具体的に、実際にわかりやすく事例を見せるというような。
また、その著名な先生の意に反するような表現は抑えて、無難なところに落ち着かせるというような。
しかしこの漫画は、なにかの理論をベースに構成されているわけではなく、結構リアルに登場人物の言動や心象を自由に表現していると感じられるのです。
端的に言うと、生々しさがある。
これは、漫画を描かれた百田ちなこさんの劇画チックな絵柄も影響しているのではないかと思っています。
気の強い主人公の女性を筆頭に、それぞれの大切にしたい価値観が時折表出しながら、登場人物がぶつかり合います。
漫画版のビジネス本では、1つの章ごとに漫画、その後に文章で解説、それを繰り返すというパターンがよくあるのですが、これは一気に漫画で最後まで通すのです。
これが実に気持ちいい。
しっかりと漫画の世界に引き込まれ、それぞれの登場人物のキャラクターが際立ちます。
そして、この本は3部で構成されています。
1.漫画編
2.ワーク編
3.独白編
漫画が終わると、ワーク編(読者への問い掛けを含めた著者の解説)があるのですが、私が最も面白いと感じたのが、独白編です。
漫画の本編が終了した5年後に、もう一度主要な登場人物が描かれます。
それは漫画として描かれるのではなく、登場人物と個別にインタビューを受け、過去の自分を振り返り、語るというもの。
人は誰しも、その時は悩み、葛藤の中でもがき苦しむものですが、時間をおいてゆっくり考えると、その時のことを冷静に振り返ることができ、またその出来事に意味を持たせることもできるのです。
「多様性は認めるし、自分も人と比べて至らないところも自覚している。」
「でも、自分の軸は崩したくない。」
こんな気持ちがインタビューを通じて、それぞれの登場人物から漏れ出てきているように感じました。
特に最も印象的だったのが、最後に登場した佐倉愛子のインタビューでした。
佐倉愛子は気の強い主人公の後輩です。
漫画では柔らかいキャラクターで描かれているようですが、実は自分のこだわりに自覚的であったことがここでわかります。
彼女はインタビューでこのようなことを言います。
「変わることは好きだけれど、変えられるのは嫌だ。」
この言葉の中にはいろんなものが含まれているように感じます。
北野さんは、この2つの特徴をわかりやすく次のように解説されています。
■変わることが好きな人の特徴
・自分のこだわりが一番
・変わるのは自分の意志で
・過去をベースに考える人
・過去の自分がこうだからという一貫性を重視
■変えられるのが好きな人の特徴
・周囲の影響を受け、世の中に合わせて、どんどん自分を変えていくことができる。
・未来をベースに考える人
・過去の自分には興味がない。
・未来を達成するために自分を変えていく。
これを見たとき、自分はどちらだろうか、と考えました。
おそらく、私は次のような割合であろうと思います。
変わることが好き:変えられるのが好き=6:4
これは、どちらが良い、どちらが悪いというものではないことは明らかです。
自分が過去にしてきたことにこだわりながら変化するのか、それとも未来に向けてしなやかに変幻自在に変わっていくのか。
これはまさに“生き方の問題”である。
このように感じたのです。
さて、まだこの本について書き足りないことがありますので、次号に続けることにします。