先日、テレビ東京系列のビジネス情報番組、カンブリア宮殿にて、「外食産業は生き残れるのか?コロナに負けない!丸亀製麺の復活劇」と題した放送回がありました。
最近、マーケティングの授業内で、丸亀製麺がV字回復を成し遂げたマーケティング戦略を題材にしたこともあり、さらに授業に活かすことはできないかという視点で視聴していました。
私が一番印象深く感じたことを、最初に述べます。
この放送回で「V字回復の立役者である刀の森岡毅さんの“モ”の字も語られなかった。」ということです。
トリドール ホールディングス傘下にある丸亀製麺は、2018年1月~2019年4月、既存店の売上高が16ケ月間連続で前年同月を下回ったといいます。
その時、自社内では現状を打破することが困難と判断した社長の粟田さんが頼ったのが、マーケティングプロ集団刀の森岡毅さんです。
2社間での協業について、お2人で共同記者会見をしている様子をYouTubeで確認することもできます。
さて、その森岡さんが丸亀製麺をマーケティング分析したところ、2つの問題点が浮かび上がったそうです。
ひとつは、ブランディングの概念が希薄である会社であること。
もうひとつは、丸亀の本来の良さが消費者に届いていないということ。
受講している生徒は、この復活劇を誰も知らないようでしたので、私は授業中に次のようなワークを実施したのです。
「あなたは、丸亀製麺で勤務を開始して1年経過した学生アルバイトです。
学校の授業でマーケティングを学んでいると聞きつけた店長が、本部マーケティング戦略室によるヒアリング対象にあなたを選定してくれました。
マーケティング学科で学んだことを活かして、丸亀製麺V字回復に向けた提案をして欲しいとのこと。
あなたなら、どのような提案をしますか?」
というものです。
数分時間を取ってから、一部の生徒の声を拾ったところ、次のような声が挙がりました。
・利幅の大きい季節限定商品を投入する。
・クーポンを発行して割引幅を大きくする。
・うどんと同様に、サイドメニューの天ぷらなどを作り置きせず、注文を受けてから揚げる。
・丸と亀は、それぞれドラゴンボールを連想させるため、うどんの上に乗せる具材を星形とか色を真似てコラボ商品を売り出す。
ちなみに、丸とはドラゴンボール(四星球など)の形状、亀は亀仙人だそうです・・・
他にもいくつか挙がりましたが、概ね現在のメニューに手を加えるか、新商品を投入するといったものでした。
もし私が学生であったなら、こうしたメニュー変更や派手なCMを流すなどと言ったのかもしれません。
しかしながら、いずれにしても、こうしたことでは一時的に回復しても、長続きしないのです。
もちろん、森岡さんが丸亀製麺をV字回復させたやり方は、こうしたことではありません。
森岡さんは複数のメディアを通じて次のようなことをお話しされています。
並みのマーケターなら、まずは、経費削減、値引き、単価の高い季節限定商品で業績を回復させようとする。
その後、全国で850店以上もあるチェーンストアであること重視し、店舗単位での製麺を止め、セントラルキッチンの役割を持つ大規模工場を建設して、生産性向上を目指す、などです。
しかし、ブランディングを重視するのであれば、それはするべきでないといわれます。
実は、森岡さんは粟田社長から協業を持ち掛けられた時に、受諾した理由がきちんとあったのです。
森岡さんは、依頼を受けたすべての会社と協業することは無いと言われます。
それは何故かというと、会社のどこかに宝が全くないのであれば、やっても徒労に終わる可能性が高いからだというわけです。
森岡さんは、独自の分析の結果、丸亀製麺に存在する宝を見つけたから、協業を受諾したのです。
それは、1店舗の例外もなくすべての店舗において、製麺機の設置率が100%であったということ。
創業時以来からの「出来立ての感動をお届けしたい」に着目し、全ての店舗で粉から麺を手作りし、原料は国産小麦、水、塩のみという、これこそが丸亀製麺のブランド・エクイティ(消費者が持つブランドのイメージ、企業側からはブランドの資産)であると。
セントラルキッチンの設置による効率化で収益を生み出すのではなく、「すべての店で、粉から作る」といったチェーンストアらしからぬ、一見非効率な部分に、丸亀製麺の真の強みがあることを見出したのです。
この強みが消費者に認知されていないことが問題であるとし、手作りのモリモチ感を“丸亀食感”と定義し、消費者に伝わるCMに変更したのです。
かつて、森岡さんが2010年のクリスマス時期にユニバーサルスタジオで、消費者インサイト(消費者が気付いていない隠された真実)を突くCMで大きく集客を伸ばした実力をいかんなく発揮されます。
森岡さんは、全店で出来立てをお届けするサービスをブランド・エクイティとし、消費者に伝わるCMを展開することで、V字回復の軌道に乗せることを可能にしたのです。
凡人は、新商品開発やセールなどの外側ばかりに目が行ってしまうもの。
プロは、会社の内側に目を向け、何が強みであるかを見つけることに注力する。
森岡さんは、“外”より“内”を見ることの大切さを説かれていたのです。
ということで、私はてっきり、カンブリア宮殿で、森岡さんが起点となった取り組みとして放送されるものと思っていたのです。
実際は、粟田社長のお話と店舗取材映像ばかりで、私は途中、モヤモヤした気持ちでした。
しかし、次第にわかってきたことがあります。
これは、私の想像ですが、もう刀はトリドールへの支援が終了し、手が離れたのではないか、現在はトリドールが完全に主体となって進んでいるのではないかと。
森岡さんの名前を出さないことで、トリドールは独り立ちし、グローバルで拡大していくということをアピールしたかったのではと、思ったのです。
森岡さんは、著書の中で、このようなことを言われていました。
ユニバーサルスタジオを去ってからも、私がその会社に居なくても、既存の社員がどんどん新しい取り組みをし、成長を続けている。
私は、マーケティングで日本の会社を元気にしたいという理由で、マーケティングプロ集団の刀を創業した。
元気のない会社を再興して、それが完了したら、また次、またその次と。
それを繰り返し、もう日本に再興する会社が無くなれば、私を必要としない世界になれば、それこそが“本願成就”、とまで言われていた言葉を思い出しました。
森岡さんの域に達することは、到底できませんが、そこまでの熱を持って、自分の専門で打ち込み続けることが出来れば、目の前の景色をいつか大きく変えることが出来るのではと、考えさせられたのです。