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第117号 マーケティング戦略とキャリア戦略には親和性が高いという事実を再認識して、決意したこと

 

数か月前からとある専門学校にて、主にマーケティング学科の非常勤講師を担当しています。

 

会社員時代マーケティングを実践する部署にはおりませんでしたが、日本が誇る実践型プロマーケーター森岡毅さんに影響を受けていたこともあり、自分のステップアップのために、とある紹介機関から講師の仕事をお引き受けすることになったのです。

 

受講生は主に20歳前後の若者が中心で、私語や居眠りも多く、1クラスが結構まとまった人数ということもあり、初めは授業をコントロールするのに苦労しました。

 

しかし、回数を重ねていくうちに、次第に耳を傾ける受講生も増え始め、先日一部の生徒から、講師冥利に尽きるこんな嬉しいことを言われるようになりました。

 

「毎回勉強になっています。よく(通学の)電車の中で授業の振り返りをしています。特にポジショニングマップ(商品やサービスを提供する企業が、競合他社に対して、独自の立ち位置を取る4象限のマトリクス図のこと)の考え方は非常に学びになりました。」

 

 

私は、これまでに森岡さんが執筆された本は全て読んでいるのですが、マーケティングの授業を受け持つにあたり、これまで読んだ森岡さんの次の本を繰り返し読み返し、そのエッセンスを授業で使用する教材に一部落とし込みました。

 

「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」

 

「USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門」

 

「確率思考の戦略論  USJでも実証された数学マーケティングの力」

 

特に「確率思考の戦略論」は難解な数式もあり、正直申し上げて文系の私には全てを理解することはできなかったのですが、特に次の内容は授業をするにあたり、非常に参考になりました。

 

 

・消費者の意志、利害、行動で積みあがった市場構造の正体(DNA)は、消費者のプレファランス(好意度)である。

 

・人にはそれぞれのプレファランスに基づくエボークドセットと呼ばれる消費者の頭の中にあるブランドの組み合わせにあったサイコロを持っている。

 

・人は商品を購入する際、そのサイコロを振って出た目を選択している。

 

 

クラスを替えながら、授業を数十回と続けていると、ふと気付かされたことがあるのでした。

 

自分の専門分野である“キャリア”と今回学んだ“マーケティング”は共通点が多いということです。

 

森岡さんのマーケティングに関する本でも、いくつかキャリアについて言及されています。

 

 

一般的なマーケティングの教科書には、マーケティングのプロセスとして、次のように紹介されることが多いです。

 

市場・環境分析➡セグメンテーション➡ターゲティング➡ポジショニング➡マーケティング・ミックス4P(製品、価格、流通チャネル、プロモーション)

 

セグメンテーション:市場を分けること

 

ターゲティング:分けた何処かを狙うこと

 

ポジショニング:独自の立ち位置を取ること

 

また、森岡さんは、著書を通じて次のようなことを説かれます。

 

「マーケティング戦略とは、“経営資源配分の選択”である。」

 

「マーケティングは“どうやって戦うか”の前に“どこで戦うか”、を先に決めることが重要である。」

 

 

これは、まさに個人のキャリア戦略そのものを言い表しているのではないか、と思うのです。

 

つまり、キャリア戦略も、自分の持っている知識、スキル、容姿、態度、人脈などの考えられる保有資産を組み合わせ、誰に向けて、競合する他者と差別化できるどの位置に自分の旗を立て、勝ち筋を見つけ歩むのかを考えることであるともいえるのです。

 

 

実は森岡さんの著書の中で最も私が好きなのはこれです。

 

「苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた働くことの本質」

 

もともとこれは、当時大学生で就職活動に悩んでおられた森岡さんの娘さんに宛てて書かれたものであったそうです。

 

数多くネット上に書評があるのでここでは簡単に述べますが、私が最も心を打たれたのは、「わが子を想う森岡さんの、厳しさの中にあるとてつもなく深い愛情」でした。

 

編集者が最初に少し読んで涙してしまったという話も納得がいくのです。

 

 

ヒトにはそれぞれ長所、短所がある。

 

短所を克服することに時間を費やす必要はない。

 

長所を伸ばす努力をするとともに、それを活かせる場所を人生という文脈で考え、泳いで渡って行くこと。

 

また、短所であるという自覚はあっても、その短所が強みに替わる場所がどこかに存在している可能性があることを知ること。

 

この本には、プロのマーケターならではの、キャリアに対する深い洞察を垣間見ることができます。

 

 

私がこれまでキャリアについて学んできた中で、最も声を強くして言いたいことは、「自分は他の誰かのようになる必要などない」ということです。

 

とかく人は他人と比べてしまう生き物です。

 

本当の意味で自分のキャリアを豊かにしたいと考えるなら、比較するのは他人でなく、過去の自分です。

 

 

人は誰かに憧れることがあります。

 

もちろんそれは悪い事でもなく、むしろ長い人生を生きていれば当然起こりうることです。

 

しかし、その人と同じことを出来るようになる必要は全くないということです。

 

誰しも、天から授かった固有的な素質、特性のようなものがあり、生まれた場所、周囲の環境、出会う人、いろんな要素が相まって、その人が形作られているのです。

 

だから、憧れの人は、憧れで一旦横に置いておき、自分の中を深く見ることが最も大切なことなのです。

 

 

「自分はどのような時に心が震えるのか?」

 

「どんな言葉につい反応してしまうのか?」

 

「絶対避けたいこと、望まないこと、自分のポリシーに反することとは何なのか?」

 

「寝食を忘れて没頭してしまうようなこととは何なのか?」・・・

 

 

このようなことを自らに問い続け、想いと行動の一致を図ることで、自分らしい、そして自分が納得できるキャリアに近づいていけるのではないかと思うのです。

 

私は、このマーケティングでの学びをキャリアに取り込み、キャリアを真剣に考えている人にサポートができるようなセミナーを提供したいと考えています。

 

また、完成すればこの場で紹介させていただきたいと思います。