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第113号 業務改善は、“定義”と“要諦”を語るところから始めねばならない

 

 

先月、コロナウイルスの影響が拡大する前に、とある企業が主催する業務改善研修に参加してまいりました。

 

その日は私を含め2名の受講生で、ほぼマンツーマンの講義になりました。

 

講師として5年以上のご経験があり、年齢は私とほぼ同じ、細身でパリッとしたナイスミドルという感じの方にご教授いただきました。

 

講義とは全く関係ないことなのですが、その研修の中で一番驚いたことがありました。

 

それは、私が休憩から教室に戻ってきたときに、その講師から「その椅子に掛けてある黒のトートカバン、〇〇〇〇〇〇〇ですよね?」と尋ねられたのです。

 

思わず「エッ、なぜわかるんですか?」と聞き返してしまいました。

 

ブランド名が見えないポジションでカバンをかけていたので、不思議に思ってとっさにそう反応してしまったのです。

 

というより、もともと凄く細かい字の刻印なので、パッと見て読み取れませんが。

 

革質と形状だけでおわかりになられたようです。

 

すると講師の方から「私も同じブランドを持っているんですよ。」と。

 

見るとその方は黒のブリーフバッグをお持ちでした。

 

続いて言われた言葉がものすごく印象的だったのです。

 

 

「これ、わかる人にはわかるんですよね!」

 

 

わかる人にはわかる。

 

わからない人にはさっぱりわからない。

 

その言葉自体は当たり前の言葉かもしれません。

 

しかし、私はその時こんな別のことを考えていました。

 

それは自分が提供できる価値のことです。

 

私の最も大切にしている価値観である「個性の発揮」。

 

自分が提供するサービスやプログラム。

 

私が作り上げたものは、間違いなく良いものであると自信を持っています。

 

完成後、この価値を皆にわかって欲しい、そんな感覚が沸き上がることがあります。

 

しかし、現実にはその価値をわかってくれる人とわかってもらえない人がいるのです。

 

そうなった時、「なぜわかってくれないんだ」と嘆くのか、「わかってくれる人だけでいい」と冷静につぶやけるか。

 

どちらが自分にとって望ましいのか。

 

そんなことを考えたとき、「これ、わかる人にはわかるんですよね!」

 

この言葉に少し勇気づけられたような気がしたのです。

 

 

さて、余談はさておき、本題の研修です。

 

配布のあったレジメに沿って進行されるのですが、最初に業務改善とは何かという話から始まりました。

 

業務改善とは、業務の生産性を上げるために、やり方を変更すること。

 

そうすると、この生産性とは何かという定義をはっきりとさせる数式が必要です。

 

つまり・・・

 

生産性 = OUTPUT ÷ INPUT

 

生産性  = 成果(質×量)÷ 投入時間

 

すごくシンプルでわかりやすい式ですし、実際に業務改善について顧客に具体的な説明をする前に、これを最初にきちんと明示することが必要であると感じます。

 

次に、業務改善のアプローチについて説明がありました。

 

業務改善というと、最初からどうやって改善するのかという“やり方”を探ろうとしがちです。

 

そうではなく、本来は次のように順序立ててやるべきであるといわれます。

 

①What → ②Where → ③Why → ④How

 

 

①What(何を)

 

多角的な視野で問題を洗い出した上で、テーマを絞る。

 

②Where(どこが)

 

数値や図表などを用いて可視化する。

 

③Why(なぜに)

 

真の原因に突き当たるまで徹底して掘り下げるとともに、原因を体系的にとらえる。

 

④How(どうやって)

 

明確な目標を立て、関係者を巻き込みながら実行し、効果を検証するなどのPDCAサイクルを回す。

 

実際職場で抱えている課題をこのフローに当てはめて、自分なりの答えを出していくというスタイルの研修でした。

 

もちろん①~④は、どれが一番重要という話でなく、業務改善にはすべて欠かせない要素です。

 

なかでも②Whereの現状分析はいろんな手法がありますが、実例を正確に落とし込むのは技術が必要とされます。

 

例えば、書類を探すのにかかる5分間のコストを算出するという“フェルミ推定”といわれる分析方法。

 

問題となる要因を棒グラフで大きい順に並べ、併せて、折れ線グラフで各要因の累積をパーセンテージで表示する“パレート図”という、何が決定的に重要かを視覚化するための分析方法。

 

また、③Whyでは、“特性要因図(フィッシュボーンチャート)”と呼ばれるある結果に影響を及ぼす可能性がある事項を魚の骨のように書き出して視覚化する分析方法。

 

ただし、こうした考え方も見方を変えれば、一つのやり方に過ぎません。

 

もちろん、大切な考え方、アプローチの一つであると理解しています。

 

しかしながら、こうした説明を受けるにつれ、私が想定している中小企業の人事の方に対しては、使用する機会は少ないであろうと次第に思うようになっていきました。

 

 

そう思っていた矢先に、講師の一言が私の心に響いたのです。

 

「実は、業務改善に本当に必要なことは、“思考”“感情”“覚悟”なんですよね!」

 

自信のある思考によって できる か できないか を決める。

 

勇気のある感情によって やる か やらないか を決める

 

覚悟ある魂によって すべての責任を負う。

 

 

この内容は配布されたレジメにはどこにも記載されていません。

 

基本的に配布資料は主催者が内容を決めており、講師はその内容を改変する権限がありません。

 

おそらく講師の方が資料とは別に、必要があると判断してお話されたのだと思います。

 

 

私は、業務改善のすべてがそこに凝縮されているように感じました。

 

もし、現場で改善作業が始まってからでは、この話をしても手遅れであると。

 

キックオフミーティング時などに、少なくとも次の2つのことは、関係者全員に伝えなくてはいけないはずです。

 

 

1.業務改善の定義

 

業務改善とは、生産性を高めること。

 

生産性は投入(インプット)した時間 に占める 成果(アウトプット)の割合。

 

 

2.業務改善の要諦

 

業務改善の要諦は、“思考”“感情”“覚悟”である。

 

 

もちろん、分析や対策も大切です。

 

しかしながら、途中で予期せぬ事態が起こり頓挫した時などに、“自信”と“勇気”を持って魂で問題にぶち当たることができるかどうか。

 

ここからスタートすることが業務改善の成否につながるといっても過言でない。

 

これは単なる精神論・根性論ではない。

 

逆境に打ち勝つための最後の砦であると私にはそう映ったのです。