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第104号 宇治徳洲会病院勤務の臨床検査技師から滲み出ていた仕事に対するひたむきさ

 

ここひと月ぐらいの話ですが、次男が授業中に頭がふらつくということで2回学校を早退していました。

 

1回ならまだしも、1ケ月で2回も同様の症状で早退することになると、ひょっとして大病ではないか、精神的なストレス、それともいじめが原因かもと、思春期の息子を持つ親としてはいろんな心配をしてしまうものです。

 

本人に聞いても、精神的なものではないというのですが、どうしてそんな症状になるかは、よくわからないと言います。

 

そうすると、脳に何かしら機能障害が起こって、貧血のような症状を引き起こし、ふらついたりするのではと想像します。

 

そこで、診療所に大病院への紹介状を書いてもらい、2日にわたり検査をすることになりました。

 

1日目は、主に血液検査と脳のMRI検査です。

 

2日目は、脳波検査をして、覚醒と睡眠の程度を調べるとのこと。

 

1日目は平日であったため妻が付き添い、2日目は土曜日であったため私が付き添いました。

 

脳波検査したその日に、医師から総合的な診断をしていただくことになっていました。

 

検査の結果、全ての数値は正常の範囲内で、思春期にみられる自律神経の異常ではないかという診断でした。

 

とりあえず、大事に至らなくてよかったです。

 

さて本日は、私が付き添った2日目の脳波検査を担当して下さった若手の臨床検査技師の方に感銘を受けたことについてお伝えさせていただきます。

 

その方の仕事に対する姿勢が本当にすばらしく、社会人としてこれは見習わなくてはいけないと本当に考えさせられたのでした。

 

検査の前後を含め付き添いで1時間程度一緒に居ただけなのですが、その限られた時間でその方から深い話をいくつも聞けて、私はその人柄に大変好感を持ちました。

 

簡単にその方のご紹介をします。

 

その方は3年制専門学校を卒業後、同時に国家資格である臨床検査技師免許を取得され、この徳洲会病院に就職され、現在4年の歳月が経ったところです。

 

最初からこの脳波を検査する仕事に従事。

 

この病院で勤務している医師や看護師など全てを含めておよそ1200人。 

 

その内、この脳波検査の仕事に従事している職員は5名。

 

この仕事始めてしばらくするまでは、自分にはこの仕事が向いているんだろうかと思い悩むこともあった。

 

もともと、高校生の頃、写真コンクールのようなものでたまたま良い賞を取ることができた。

 

その頃から趣味が高じてこれを仕事にしていきたいと本気で思った。

 

しかし、医療系の仕事をしている親からは反対され、親の勧めで検査の専門学校を受験。

 

合格し、臨床検査技師を目指すことになった。

 

卒業と同時に国家資格も取得したものの、何か心にもやもやが残っている状態で、この仕事を始めることになった。

 

しかし、「まさか自分がこの仕事にドはまりすることになるなんて、夢にも思わなかった。」とその方から印象的な言葉がありました。 

 

それは、おそらく老若男女いろんな患者さんと触れ合う機会があったからと言われます。

 

生後数日の乳児の脳波を検査する。

 

頭蓋骨を取り除いたぶよぶよの頭の患者さんの脳波を検査する。 

 

それらの検査結果が、患者さんの今後の治療方針の決定に大きく左右されることがわかっているから。

 

自分が万一いい加減な仕事をした時には、診断する医師の判断を誤らせてしまうことになり、ひいてはそれが患者さんの命にかかわることにもなる。

 

私はベッドの横でイスに座りながら、検査の始まりから終わりまで見させていただいていましたが、正直凄く地味です。

 

20本から30本程度の細長い電極の端に、クリームを塗り、頭に1本1本付けていくのです。

 

その後、部屋を薄暗くして、合図で瞬きをさせたりして、眠りを誘発させたりして脳波の変化を見ます。

 

何秒かおきに、機械から出力された波形線に鉛筆で書き込みをされます。

 

これが非常に単調に見えるのです。

 

1日最大8人これをされたと言われました。

 

この薄暗い部屋で自分がこの仕事をしていたら、間違いなく、うつらうつらしてしまう、私は即座にそう思いました。

 

過去に、石原さとみさん主演の「地味にスゴイ」という校閲の仕事を題材としたドラマがありましたが、それに近いものを感じました。 

 

そしてその方は、こうも言われました。

 

「まもなく後輩が入ってくるけれど、本当はこの仕事、渡したくないんです。」

 

凄く気になる発言でしたので、問いただします。

 

「こんなに少人数でやっているなら、自分をフォローしてくれるメンバーはいたほうがいざという時よくないですか?」

 

「確かにそうなんですけど、これは自分のエゴです。」

 

「それほど、この仕事を好きになってしまったのです。」

 

と笑いながら言われました。

 

準備と後かたずけに30分、検査に30分、これで1人。

 

それを毎日何人か薄暗い部屋でずっとやり続けるのです。

 

これがドはまりしたと。

 

カメラを仕事にしなくてよかった、今は趣味で十分と言われます。

 

もう一つ印象的だったのは、患者さんに対する向き合う姿勢でした。

 

「最近、パソコンや検査機器のディスプレイばかりを見て、患者さんの顔を見る医療関係者が増えてきています。」

 

「顔を見ない検査技師は、意識が自分にいって、患者さんにいっていない証拠。」

 

「それでは、安心して検査を受けていただくことはできない。」

 

これは私が以前このブログで紹介した話と全く同じです。

 

 第85号 目は何のためにある!?

 

検査が終わりに近づく頃にこんなことを私がつぶやきました。

 

「これからは医療の分野にもAIやロボットが進出してくると思いますが、この仕事のオートメーション化はかなり難しそうですね。」

 

その方はこう返事されました。

 

「仮にオートメーション化がなされたとしても、私が患者なら、気持ちの通わないAIやロボットに検査をしてもらいたいとは思わない。」

 

「人だからできる仕事というものはあるから。」

 

''こんな熱い若い臨床検査技師がいるなんて・・・''

 

その方は自分が他人に与える影響力がどれほどのものかきちんと理解して仕事をされているのだろうと思います。

 

今後少子高齢化が加速し、AIやロボットが雇用環境を大きく変えてしまうと言われている中で、人の役割や、働く姿勢を改めて考えさせられた1日になりました。