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第102号 毎月勤労統計の不適切調査から考える日常に潜む「漫然と踏襲」

 

最近話題になっている毎月勤労統計の不適切調査。

 

従業員が500人以上いる企業については、本来全数調査するべきところ、東京都分の約1400事業所の内、1/3を抽出して調査していたという問題。


サンプル抽出するのであれば、適正数値に近づけるための復元操作が必要。


しかしながら、その操作を2018年1月に途中からこっそりやってしまったため、統計の連続性を失わせてしまったことが問題を大きくしました。

 

この統計調査結果は、月例経済報告、景気動向指数などの経済指標や失業保険や労災保険の給付額の算定などに広く用いられているといいます。

 

今回の件で、過去に支払われた失業給付や労災保険給付など約500億円の支給不足が発覚したというのです。

 

この遡及のみならず、過去分も再調査をするべきだとの声もあり、事態が沈静化するのはまだ先になりそうな状況です。

 

さて、この毎月勤労統計調査を実際に記入して定期的に提出しておられた方はいらっしゃいますでしょうか。

 

今から随分前になりますが、私は仕事の関係でこれを何十回と記入して、届け出していましたので、どんなものかは理解しているつもりです。

 

毎月これを記入して提出しておられた方は理解していただけると思うのですが、はっきり言ってこの調査報告、面倒くさいです。

 

男、女で分類したり、千円未満を四捨五入したり、人数の多い事業所が選定されてしまうと、さっとできないので大変です。

 

ですから、つい本業が忙しくなると後に回してしまいがちでした。

 

そうなると、厚労省の委託先から督促の電話が何度も来ます。

 

それを受けてからようやく作成に入ることもしばしばでした。

 

確かに厚労省が調査をするのですが、実際は選定された企業の人事担当者が無償で協力するのです。

 

全数調査をしなくなったのは、事務作業が増えて大変というクレームを入れるという形での企業側の反発があったとの報道もあり、妙に納得してしまいました。

 

それはさておき、今回の報道で私が注目したキーワードがあります。

 

「漫然と踏襲」

 

この問題を調査している関係者によると、「厚労省内で組織ぐるみの隠ぺいがあったとは言えない。」との見解がなされています。

 

こうした事態は、この業務に従事してきた厚労省の職員がこれまでのやり方、考え方に問題意識を持たず、漫然と仕事を続けてきたことの結果であるというのです。

 

このニュース記事を見た時、ふと考えさせられたのです。

 

自分の仕事、自分の組織はどうだろうと。

 

最近、諸事情により新しい業務を引き継ぐことになり、関係部署と調整していた時の話です。

 

私の所属する部署でまずやらなくてはいけないことが、顧客に案内しているお客様相談窓口の電話番号が変更されることを文書で案内することでした。

 

しかし、こうした変更時には、必ず所定の書式で取締役の決裁をもらい、その上本社に回付するという慣例があったのです。

 

私は瞬間的に、「電話番号が変更されるぐらいのことに、そこまでする必要はないはず。」と考えました。

 

即座に本社の管理職に確認の電話をし、今後社内決裁は不要との了解を取り付けました。

 

ただし、事業部内で承認を取ることは必要との結論になりました。

 

こんな文章でこれだけの顧客にこんな案内をしますよという、エクセルの一覧とワードの文書を添付して、事業部内の関係者全員にメールをすることによって了解を取りつけたとすればいいのです。

 

これまでは、こうした各種変更内容を顧客に送付する都度、決裁書を本社に回付していたといいます。


念のためにしていたとのことでした。

 

こうした決裁には複数の承認者、閲覧者がいるため非常に時間が掛かってしまいます。

 

ですから、本当にそれが必要な事なのか。

 

なにか別の形で承認を取ることが出来ないのか、立ち止まって考えることが必要だと思うのです。

 

しかし人はついこんな風な思考をしてしまうものです。

 

・これまで前任者が続けてきたから同じようにしておこう

 

・自分の代でやり方を変えてしまったら、後で誰かに何か言われるかもしれない

 

・責任を負わされたら損だからこのままにしておこう

 

こうした考えが非効率、不適切な処理を招くもとになっているのではないでしょうか。

 

今回の厚労省の不適切な調査を、単にお役所体質が招いた不祥事がまた発覚しただけだと捉えるのではなく、自分の仕事のやり方、自部門の組織の在り方を改めて見直してみるきっかけにしたいものです。