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第72号 年を取る毎に失っていくと、最後に残るものとは

 

昨日は国家資格キャリアコンサルタントのミドルシニアを対象としたキャリアコンサルティング技能講習を受講してきました。

 

ミドル・シニアがキャリア上で遭遇する困難を理解して、それを乗り越えるためのキャリア支援を学ぶというものでした。

 

講師の方はベテランの先生でした。

 

仕事や家庭で様々な経験をされ、かなりの数の中高年を対象としたキャリアカウンセリングもされてきたようで、言葉に非常に説得力があるのです。

 

冒頭にお話しされたのは、ミドル・シニアへの適切な支援には、「社会構成主義」をきちんと理解しておく必要があると言われるのです。

 

カウンセリングには様々な理論、考え方が存在します。

 

数ある中の一つ、「社会構成主義」というものがあります。

 

それは、現実とされる人々の認識、社会現象、常識、心理、善悪などは、全て人々の関係の中から生まれており、その関係なしには存在しないという考え方で成り立っています。

 

なぜこんなことを考えなければならないのでしょうか?

 

ある時、現実であると確信していたことが、ふと本当に現実なんだろうかと考えた時、人は急に不安になるのではないでしょうか。

 

「正しいこと」「道理」「真実」「正義」と思っていたことを揺るがされたり覆されたら、このことに対して人は脅威を感じるものです。

 

そうなると、人は安心を手に入れるため、ますます強固な、絶対的なものを追い求めがちになります。

 

しかし、こうした発想を手放し、物事の捉え方に絶対的なものなどなく、全ては社会やそこに属する人々が構築しているといるんだ、という考え方が、「社会構成主義」なのです。

 

この研修において、キャリアカウンセリングの一つの目的として「自己概念の成長を促すこと」を挙げられています。

 

自己概念とは「自分らしさ」や「ありたい自分」とも言い換えることができます。

 

しかし、現実の社会の中で、その人だけで、それを知ろうとしても上手くいかないことがほとんどなのです。

 

相手がいるということを抜きにして、自己概念を語ることは出来きない。

 

つまり、人々との関係性の中でしか、自己概念は存在しないと言われるのです。

 

能力がある人が必ず出世するかと言われると、そうでもない。

 

相手(この場合は上司や会社組織)との関係性を無視して、出世は出来ないからです。

 

自分はこうありたい、自分らしく生きたいと思って、自分1人だけで物事を考えるのではなく、関係するものも含めて一緒に考えましょう。

 

ミドル・シニア世代は、人生経験が長く、こだわりが強くなる傾向があるため、自分一人で考えるのではなく、自分を取り巻く関係性を見える化して、できるところから改善していきましょうというお話でした。

 

 

私がこの研修で一番印象に残った話をご紹介します。

 

これから誰もが迎える高齢者への道。

 

いろんな不安にどう向き合うべきかをこのようにお話しされました。

 

シニア世代になると、体力・忍耐力・記憶力といったものが、年々低下していく。

 

すると、これまで出来ていたことがどんどん出来なくなってしまう。

 

情けない、悲しい、そんな気持ちに苛まれてしまうことがあるのかもしれない。

 

老後は、自由な時間ができ、これまで出来なかったことが出来る、諦めていた夢が実現できるなんて幻想に過ぎない。

 

出来たことが年を追うごとに出来なくなっていく、それはつまり可能性がどんどん閉ざされていくことを意味する。

 

しかし、それは未来に希望を持てないと捉えてはいけない。

 

どんどん可能性が閉ざされていくと、その人が持つ特徴が顕著になって、かえって自分の出来ること、自分らしさが明確になってくる。

 

それは自分の最高点に向き合うことに他ならない。

 

こう語られました。

 

私はこの言葉に深い感動を覚えました。

 

最後は、身ぐるみ剥がされ、自分そのものが残る。

 

老後はその「人となり」が問われることになるんだ、私に「あなたは、これからどう生きていくのか?」ということを問われたような気がしたのです。