今号も引き続き稲森和夫さんからのお話です。
私は最近たまたま週刊ダイヤモンドで知ることになりましたが、他の方のブログなどを拝見させていただいていると、稲森さんが随分前から講演などで披露されている話であることが分かりました。
他の方より、遅れて知ることになったわけですが、私は何ら負い目を感じていません。
むしろ、今年からブログを始めたこのタイミングで、たまたま図書館で見た雑誌で、深い学びに巡り合えてなんてラッキーなんだと感じているのです。
「小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり」という格言をお聞きになられたことはありますでしょうか。
これは、次のような意味です。
一見傍からは小さな善い行いに見えるが、それはむしろ悪いことをしているのと変わらない事がある。
また、一見傍からは思いやりのない冷たい対応に見えるが、実は本質的に見れば善い行いをしているのだと。
稲森さんは、この例えとして、小さな湖に住んでいるおじいさんと、冬を越すために魚の住むその湖にやってくる雁の群れとの話をされます。
ある年の冬に、寒波が押し寄せたため、湖面が凍結し、魚が捕れなくなりました。
雁の様子を見ていたおじいさんは、どんどん弱っていく雁を放っておけず、お腹をすかせた雁に対して、餌を与えました。
それからというもの、毎年冬になれば、おじいさんが雁に対して餌を与えるようになってしまったのです。
そして、それから何回目かの冬に、急におじいさんがエサをやりに来なくなりました。
いつもならおじいさんが餌を持ってきてくれるのですが、いつまでたってもおじいさんは現れません。
なぜなら、少し前におじいさんは亡くなっていたからです。
そのことを知らない雁の群れは、魚は泳いでいるのに、おじいさんを待ち続けます。
なぜなら、エサを与え続けられたことにより、自ら魚を捕ることを忘れてしまっていたからです。
そうしているうちに、寒波が来て、湖面が凍結し、本当に魚が捕れなくなってしまいます。
生き延びるために、自ら考え、行動することを放棄してしまった雁は、全て死んでしまったといいます。
はたして、このおじいさんのしたことは、良い事だったのでしょうか。
私が尊敬する前の上司は、ある施設全体の責任者でした。
残業手当がつかない管理職の立場で、かなりの長時間労働者でした。
それは単に職場に長く居続けているというものではなく、改善出来る事はないか、職員の様子はどうか、会社・組織・人材をより良くするための事を常に考えて行動される方でした。
本当に仕事が好きな方で、睡眠時間中でも、仕事の事を考えるほどの勤勉な上司でした。
その施設内のある部署に10年以上勤務している育児短時間勤務中の女性がいました。
事業所開設時から一貫して同じ部署で同じ仕事をしていることもあり、周囲から頼られる存在でした。
しかし、自分がこの部署のことを一番よくわかっているので、彼女の直属の上司よりも大きな発言力を持っていました。
職場復帰してから彼女は、サポートをしてもらうために、一名を自分の子供の急な体調不良による対応要員として側に置くようになりました。
私も子供がいますので、突発的な休みを取る回数が増える事は十分理解できます。
しかし、そのために常時一名をサポート専任とするのは違うのではないかと、着任後しばらくして、私の上司はそう考えていたのです。
そして、他部門でフォローが出来るような態勢を短期で整えられ、そのサポート専任を廃止したのです。
そうなると、彼女は突発休の対応だけでなく、簡単に自分の仕事を他の人に振る事が出来なくなりました。
そうして、その二人に軋轢が生じたわけですが、上司には信念がありました。
これから少子高齢化が加速し、特に専門職であれば、労働力の確保が難しくなる。
であれば、多能工を目指し、一人一人の労働生産性を高め、つぶしが効く働き手となるしかない。
上司は、周囲からの多少のサポートを受けながらでも、育児をしながら働く彼女に、今後も長期的に会社の戦力として活躍することができるという手本になって欲しかったのです。
しかし、彼女はそこまで考えが及ばず、悶々とした日がしばらく続き、その上司について、周囲に批判的な発言をすることもありました。
しかし最終的には、部内異動も受け入れ、新しい環境でも通用するという実績を作った結果、標準を上回る評価を得ることになったのです。
これはまさに、「大善は非情に似たり」の事ではないでしょうか。
このような事は簡単にできることではありません。
普通の管理職なら、女性は怒らせると後が怖いからなんて考えて、遠慮がちになってしまうのでしょう。
しかし、私の上司は覚悟が違いました。
これは彼女がこの会社で続けていくために必要な事なんだという強い信念からの行動だったのです。
稲盛さんがよく語られる格言から、経営者の感覚に近い私の尊敬する元上司のエピソードを紹介させていただきました。