さて、前号の続きとなります。
「あなたの主人はあなたの心だけ。」
というこの短い言葉に秘められている大切な意味をお伝えしたいと思います。
中国の古典を引用すると言いましたが、それは今から四百年ほどの前の中国明末期の時代に活躍した「洪自誠」という元官僚が書き記した「菜根譚」という古典の書のことです。
儒教が形骸化し、正直者がバカを見るような生きづらくなった世の中で、逆境に負けない強い心を持てるような知恵をこの「菜根譚」は教えてくれます。
儒教というのは、日本でいう道徳にあたります。
私も儒教がどんなものか、きちんと理解しているわけではないのですが、私の中では、「儒教」=「正論」という理解です。
間違ったことは言っていない。
むしろ、その通りという事ばかりの内容です。
具体的に言えば、人の物を盗んでないけない、お年寄りを大切にしましょう、困っている人には手を差し伸べましょうなどというような事です。
私が授業で受けた道徳には、確かに大切だよな、でも聖人君子のような真似はなかなかできないんだよな、というような印象を持っています。
すなわち、儒教道徳は形骸化しやすいのです。
ここで言う形骸化というのは、建前では、善人のような振る舞いをしているけれども、実際は反社会的なことや悪事に手を染めているようなことです。
中国の明は、政治家や官僚などの汚職が蔓延していた時代で、「洪自誠」もこうした者達に足を引っ張られ、不遇を味わったと言われています。
さてその「菜根譚」ですが、これにはきちんとした言葉の意味があります。
「菜根」とは硬くて筋が多いけれども、かみしめることによって味わいがでるのだと。
つまり、苦しい境遇に耐えてこそ、人は多くのことを成し遂げるという意味なのです。
ところで、皆さんは、中国の三大宗教は何であるかご存知でしょうか?
それは「儒教」「道教」「仏教」です。
「儒教」は日本でいう道徳。
「道教」は裏の「儒教」とも呼ばれています。
肩肘を張らない道徳、もっと言えばずるい儒教です。
そして心を救済するための教え、それが「仏教」なのです。
実は、この三大宗教の教えの美味しいところを抽出、融合させたものが「菜根譚」なのです。
長い人生、思い通りにいかないことなどは数多とあるはずです。
そうした時に、辛いことも受け止め、心豊かに、賢く、しなやかに生きていこうという著者の強いメッセージがこの中に込められていると思います。
そんな「菜根譚」の中に次のような一節があります。
( )内は意訳です。
徳は才の主、才は徳の奴なり。
(人格が主人で、能力は召使に過ぎない。)
才ありて徳なきは、家に主なくして、奴、事を用うるが如し。幾かん何ぞ魍魎にして猖狂せざらん。
(能力はあっても人格が伴わないのは、主人が居ない家で、召使が我が物顔で振る舞っているようなものである。)
能力が高ければ高いほど、人格が要求されます。
それは、高い能力を持ち合わせている者は、きちんとコントロールできる人格を身に付けていないと、その能力が誤ったことに使われるかもしれないからです。
そう、まさにこれはナポレオンヒルの「あなたの主人はあなたの心だけ」の事ではないでしょうか。
心、人格、それは考え方とも言えるかもしれません。
稲森和夫さんの人生の方程式と呼ばれる名言があります。
人生・仕事の結果 = 考え方 ✕ 熱意 ✕ 能力
この公式で一番重要なものは、「考え方」です。
誤った考え方、つまりマイナスの考え方であれば、熱意と能力が高いほど、マイナスが大きくなってしまうのです。
偉人たちは、総じて同じようなことを言っているのだということがわかります。
それは本質をついているという証拠でもあるのでしょう。
「あなたの主人はあなたの心だけ」を強く意識して、自分を律していきたいと感じた次第です。