· 

第56号 全日本女子バレー前監督眞鍋政義さんから学ぶ逆転発想の勝利学

 

昨日、とあるセミナーに招待され、全日本女子バレー前監督眞鍋政義さんの講演を聴く機会がありましたので、その中で学んだことについてご紹介したいと思います。

 

私は全日本バレーの試合を毎回楽しみにして見ているわけではありません。

 

むしろ見ないことのほうが多いです。

 

したがって、テレビで取り上げられる機会の多い有名な選手しか知りません。

 

ここ30年で挙げても、大林素子、中田久美、竹下佳江、木村沙織、荒木絵里香ぐらいしか、顔と名前が一致する選手はいません。

 

眞鍋さんは2009年から2017年まで全日本の監督を務められ、2012年のロンドン五輪では、女子バレーが28年ぶりとなる銅メダルを獲得することになります。

 

眞鍋さんはこの時のメンバーは個性の塊で、指導に大変苦労したと振り返られます。

 

冒頭、こう話されます。

 

「スポーツはメンタルな部分を鍛えないと世界で上位にはいけない。」

 

「バレーは特に間のあるスポーツなので、前向きに考えられる選手がやっぱり強い。」

 

間のあるスポーツというのは、試合が途切れる時間があるスポーツのこと。

 

野球やバレーは、試合が止まる間がありますよね。

 

一方、サッカーやラグビーは常に動きっぱなしで間はありません。

 

間があるスポーツは、いろんなことを考える時間があるのです。

 

1点を争う緊迫した展開で、マッチポイントになって、たまたま自分にサーブの順番が回ってきたとき。

 

その時にどんなことを考えてしまう傾向があるのかによって、やる前からほとんど結果が決まっていると言います。

 

「責任重大だ、もし外したらどうしよう。」と考える傾向にあるのか。

 

それとも、「ラッキー、自分に順番が回ってきた。私で必ず決める。ヒーローインタビューはなんて話そうか。」と考える傾向にあるのか。

 

もちろん、後者が勝つのです。

 

ミスが連発している時、「もうダメだ」と思うのか、それとも「時間もまだある、十分チャンスはある、まずは1点を取ろう」と思うのか。

 

テレビ中継のある時間帯にアタックの決定率が高くなる選手がいるんです。

 

でもこうした図太さが、結果的にチームを強くするんですと語られていました。

 

眞鍋さんが講演タイトルに「逆転発想」と付けられたのは、人と同じことをしては、勝てないという信念のようなものがあったからと思います。

 

眞鍋さんが言われるには、監督というのは絶大な権力を持っていて、命令は絶対だったそうです。

 

例えば、監督のいないところでコーチと選手だけが話をしていたところを見付けたら、監督はそれを理由にコーチを辞めさせることが簡単にできたと言います。

 

しかし、眞鍋さんはカリスマ監督はいらないと、従来の慣習みたいなものをゼロクリアーされたのです。

 

監督、選手、スタッフが同じ目線で相互に意見の言えるチームにして、コミュニケーションを取ることに注力されたそうです。

 

選手は全員女性とはいえ、そんなことまでと思うようなことまで気を配っておられました。

 

例えば、選手が休みに髪を切ったりした場合に、翌朝女性スタッフからそうした情報を聞き出し、練習中さりげなく、それを話題にするのです。

 

私もそうなのですが、女性の髪の変化に敏感な方ではないので。

 

さて、そうすると、選手の動きが良い方向に向くことが多いのだそうです。

 

眞鍋さんはアイパッドを片手に分析好きのIDバレー一辺倒なのかなと思っていましたが、そうではありませんでした。

 

顔に似合わず(失礼!)、非常に繊細な方で、選手のタイプに応じて、面倒くさがらずに選手の長所を伸ばそうと指導する監督だったのです。

 

話は、ロンドン五輪でメダルを取る偉業が達成できた理由に移ります。

 

眞鍋さんは、圧倒的に身長差のある日本が世界で勝つには、常識の延長線上で物事を考えていてはダメだということに気付かれます。

 

非常識を常識にする逆転の発想をしなければいけないと。

 

それを追い求め約2ケ月考えに考えた末に、ひとつの非常識な策が生まれたのです。

 

バレーはどうなると負けてしまうのか?

 

それはボールを床に落としてしまった時です。

 

ならば、どうすれば床に落とさずに済むかと考えます。

 

アタック、ブロックはそこそこでいい、レシーブを徹底的に尖らせて、拾って拾ってチャンスを生むバレーをやろうとされたのです。

 

眞鍋さんは、その練習をするために、アタッカー役として男子選手を用意されたのです。

 

これは女子にとってはかなりつらい特訓だったようです。

 

しかし、重くて速いボールを数か月受け続けることによって、体が徐々に慣れ始め、男子のレシーブを受け止める事ができるようになります。

 

そうなると、世界レベルの女子であっても、気持ちで全く負けないようになるのです。

 

また、背番号を大会直前に変更したりして、相手チームを惑わそうとする作戦を考えるなど、やることは全部やるという強い意志のもと、あらゆることを断行されました。

 

唯一出来なかったのは、全員同じ髪型をするという事でした。

 

眞鍋さんの発案は、選手全員の髪を揃えることにより、選手を識別しにくくし、相手を混乱させる効果があると踏んだようですが、全員から猛反発を喰らい、断念されたとか。

 

最後にこれまでの練習や試合の映像をスタッフがまとめられた映像を流されました。

 

結構手間暇をかけて作られているとのことで、これを大事な試合の前日に、選手を部屋に集めて、一緒に視聴するそうです。

 

これまで辛かった練習や負けた時の悔しさ、こうしたものが走馬灯のように蘇り、選手のほとんどが号泣するのです。

 

そして試合本番では、抜群に動きが良くなり、粘り強くなると言います。

 

こうした事は、誰かが思いつくかもしれない。

 

けれども、それを誰もしようとはしない。

 

それを眞鍋さんは愚直に実行する。

 

眞鍋さんの気持ちのいい人柄を知るとともに、凄さを実感させられた1日となりました。